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愛着理論とは:ボウルビィの乳児研究から大人の恋愛まで

愛着理論は、人が怖いときや心細いときに信頼できる相手のそばへ行こうとする理由と、その相手とのくり返しの経験が「親密さ」への期待をどう形づくるかを説明する理論です。ジョン・ボウルビィとメアリー・エインズワースに始まり、のちに大人の愛着スタイル研究へと発展しました。

概要

創始者
ジョン・ボウルビィ(メアリー・エインズワースとともに)
主著
『Attachment and Loss』第1巻(1969年、改訂版1982年)
中心となる考え
安全な避難所、安全基地、内的作業モデル
大人への展開
1987年、ハザンとシェーバーが恋愛を愛着として捉える

愛着理論に初めてふれるきっかけは、診断結果やSNSで見かける「不安型と回避型のカップル」の話かもしれません。けれども理論そのものはもっと古く、もっと幅広いもので、長い議論と修正の歴史があります。[8] 愛着理論は、人が「助けがほしい」「怖い」「近くにいたい」という気持ちをどう扱うかについてのモデルです。何十年にもわたる乳児の観察と、その後の大人を対象にした研究から組み立てられてきました。

愛着理論とは?

愛着理論の中心には、3つの主張があります。[1][3]

1つめに、人には愛着システムがあります。何かが脅威に感じられたとき、特定の少数の人(愛着対象)のそばへ行こうとする、生まれつきの傾向です。赤ちゃんなら、泣く、手を伸ばす、はって親のところへ行く、といった形であらわれます。大人なら、つらい一日のあとにパートナーへ電話をかける、という形かもしれません。

2つめに、よく応えてくれる愛着対象には2つの役割があります。気持ちが乱れたときに戻っていける安全な避難所と、安心して外の世界を探索するための安全基地です。ボウルビィが後年、臨床についてまとめた本のタイトルも、この「安全基地」という考えから来ています。

3つめに、愛着対象とのくり返しの経験は、内的作業モデルになります。「相手はいてくれるだろうか」「自分は大切にされる価値があるだろうか」という期待のことです。このモデルは、誰かに頼ったときに何が起こるかを予測する助けになります。また、新しい経験の受け取り方そのものに影響するため、長く保たれやすい性質があります。[1]

用語意味
愛着対象なぐさめや守りを求めて頼る、特定の相手
安全な避難所怖いときや動揺したときに、その相手のもとへ戻ること
安全基地その相手がいてくれることを足場にして、外の世界を探索すること
内的作業モデル親密な関係の中で学んだ、自分と他者についての期待

ボウルビィの愛着理論はどこから生まれたか

ジョン・ボウルビィは、イギリスの精神科医で精神分析家でした。第二次世界大戦後、家族と離れて暮らす子どもたちについて研究し、世界保健機関(WHO)のために報告書をまとめています。[3] また同僚のジェームズ・ロバートソンとともに、病院や施設で親と離された幼い子どもたちの反応を記録しました。はじめは激しく抗議し、やがて絶望したように沈み込み、そのあと一見無関心になっていく、という経過です。

当時は、子どもが母親を慕うのは主に食べ物をもらえるからだ、という説明が一般的でした。ボウルビィはこれに納得できず、動物行動学と制御システム理論に目を向けます。そこから新しい説明を組み立てました。愛着はそれ自体が独立した行動のしくみであり、守ってくれる大人のそばにいた赤ちゃんのほうが生き延びやすかったために、進化の中で形づくられた、というものです。[1][3] この考えは三部作『愛着と喪失』にまとめられ、第1巻は1969年に刊行、1982年に改訂版が出ています。

メアリー・エインズワースと個人差

ボウルビィが説明したのは、なぜすべての子どもが愛着を形成するのか、でした。ロンドンでボウルビィと働いていたメアリー・エインズワースは、子どもによって愛着のあり方が違うのはなぜか、という問いを立てます。[3] 彼女はウガンダで、のちにアメリカのボルティモアで母子を観察し、養育者が赤ちゃんのサインにどれだけ敏感に応えているかに注目しました。

その違いを決まった方法で見えるようにするため、エインズワースたちは短い実験室での手続きをつくりました。ストレンジ・シチュエーション法です。1歳ごろの子どもが養育者と短く離れ、また再会する場面を観察します。[2] 再会の場面の様子から、安定型、回避型、アンビバレント型(抵抗型とも呼ばれます)の3つのパターンが記述されました。のちにメアリー・メインとジュディス・ソロモンが、どれにも当てはまらない赤ちゃんのために4つめの分類、無秩序型愛着を加えています。

乳児の愛着から大人の愛着へ

ボウルビィの研究と今日の恋愛のアドバイスをつないだのは、1987年のシンディ・ハザンとフィリップ・シェーバーでした。二人は、恋愛そのものが愛着のプロセスだと提案し、エインズワースの乳児の3パターンを、大人がパートナーとの親密さをどう感じるかという短い文章に置きかえました。[4] 回答者は、自分にいちばん近い文章を選びます。この発想から、社会心理学とパーソナリティ心理学に新しい研究の流れが生まれました。

その後、さらに2つの展開がありました。

  • 4つの分類。 キム・バーソロミューとレナード・ホロウィッツは、大人が親密さを避ける理由には2種類あると考え、自己観と他者観にもとづく4分類モデルを提案しました。[5]
  • 2つの次元。 ケリー・ブレナン、キャサリン・クラーク、フィリップ・シェーバーは、既存の多くの質問紙の項目をまとめて分析し、それらが2つの次元、愛着不安と愛着回避に集約されることを見いだしました。[6] 大人の自己報告による研究の多くは、現在この2つの得点を使っています。

これとは別に、発達心理学に根ざした流れもあります。いまの人間関係についての質問紙ではなく、子ども時代の記憶について語ってもらう面接によって、大人の愛着を調べる方法です。2つのアプローチは関連していますが、置きかえられるものではなく、研究者は両者の結果を混同しないよう注意しています。[7]

このサイトで紹介している大人の4つのスタイル、安定型、不安型、回避型、恐れ回避型は、社会心理学の流れにもとづいています。なお「愛着スタイル」は、英語をそのままカタカナにして「アタッチメントスタイル」と呼ばれることもあります。どちらも同じものを指しています。

愛着理論が言っていないこと

愛着理論は、もともと含んでいなかったルールへと単純化されることがよくあります。

まず、幼いころの数年で人生が決まる、とは言っていません。ボウルビィは内的作業モデルを修正されうるものとして描いていましたし、大人の愛着研究でも、愛着は新しい関係や経験によって変わりうるものとして扱われています。[1][7] この点は獲得安定型の記事でくわしく取り上げています。

次に、ひとりの養育者がすべての原因だ、とも言っていません。人が親密さにどう向き合うかには多くの要因が関わっていて、愛着が世代から世代へどう受け継がれるかについての研究結果も、単純なコピーとはほど遠いものです。[7]

そして、愛着スタイルは診断ではありません。スタイルは、健康な人に広く見られるパターンを表すものです。反応性アタッチメント障害のような臨床的な状態はまったく別のもので、その違いは愛着スタイルと愛着障害で説明しています。よくある思い違いは愛着スタイルの誤解にまとめました。

愛着理論を自分のために使うには

愛着理論をいちばん役立てられるのは、判定としてではなく、問いかけとして使うときです。関係の中で傷ついたり不安になったりしたとき、あなたは相手に近づこうとするでしょうか、離れようとするでしょうか。それとも、その両方が同時に起こるでしょうか。助けを求めたら何が起こると思っているでしょうか。その期待はどこから来たもので、いまのまわりの人たちにもまだ当てはまるでしょうか。

きっかけがほしい方は、愛着スタイル診断で、あなたの回答を2つの次元の上に位置づけることができます。方法と限界は診断のしくみで説明しています。これは自分をふり返るための道具であり、臨床的な検査ではありません。人間関係のパターンが強い苦しさにつながっているときは、専門家が力になってくれます。相談先をご覧ください。

FAQ

このテーマについてよくある質問

愛着理論をかんたんに言うと?

人は、怖いときやつらいときに、限られた信頼できる人のそばへ行こうとする性質を生まれつき持っている、という考え方です。その人たちが長い時間をかけてどう応えてくれたかによって、「困ったときに誰かがいてくれるか」「自分は大切にされる価値があるか」という期待が育ちます。この期待が、その後の人間関係での親密さとの向き合い方に影響します。

ボウルビィは愛着について何を言ったのですか?

ジョン・ボウルビィは、幼い子どもと養育者の絆を、それ自体が独立した行動のしくみだと考えました。守ってくれる大人のそばにいることが生き延びることにつながったため、進化の中で形づくられたという説明です。また、子どもは経験から自分と他者についての内的作業モデルをつくり、それがのちの人間関係にも持ち越されると考えました。

ボウルビィとエインズワースの違いは何ですか?

ボウルビィは理論を組み立てました。愛着がなぜ存在し、どう働くのかという説明です。メアリー・エインズワースは、それを目で見て確かめられる形にしました。家庭での観察とストレンジ・シチュエーション法によって、赤ちゃんが養育者を安全基地として使うやり方に個人差があることを示し、最初の愛着の分類が生まれました。

愛着理論は大人にも当てはまりますか?

当てはまります。ボウルビィ自身、愛着はゆりかごから墓場まで働き続けると述べていました。1987年にはシンディ・ハザンとフィリップ・シェーバーが、恋愛を愛着のプロセスとして理解できると提案しました。それ以来、大人の愛着研究はひとつの分野として育ち、おもに親密な関係についての質問紙を使って研究されています。

愛着理論に科学的な根拠はありますか?

親密な関係が「安全な避難所」と「安全基地」の役割を果たすという中心的な考えは、発達心理学と社会心理学で最もよく研究されてきたテーマのひとつです。ただし、一般向けの解説では、スタイルを一生変わらないラベルのように扱うなど、研究の裏づけを超えた話になりがちです。よくある言い過ぎは、愛着スタイルの誤解についての記事でまとめています。

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出典

  1. ↑ Bowlby, J.(1982). Attachment and Loss, Vol. 1: Attachment (2nd ed.). Basic Books(初版1969年).
  2. ↑ Ainsworth, M. D. S., Blehar, M. C., Waters, E., & Wall, S.(1978). Patterns of Attachment: A Psychological Study of the Strange Situation. Lawrence Erlbaum.
  3. ↑ Bretherton, I.(1992). The origins of attachment theory: John Bowlby and Mary Ainsworth. Developmental Psychology, 28(5).
  4. ↑ Hazan, C., & Shaver, P.(1987). Romantic love conceptualized as an attachment process. Journal of Personality and Social Psychology, 52(3).
  5. ↑ Bartholomew, K., & Horowitz, L. M.(1991). Attachment styles among young adults: A test of a four-category model. Journal of Personality and Social Psychology, 61(2).
  6. ↑ Brennan, K. A., Clark, C. L., & Shaver, P. R.(1998). Self-report measurement of adult romantic attachment: An integrative overview. In J. A. Simpson & W. S. Rholes (Eds.), Attachment Theory and Close Relationships, Guilford Press.
  7. ↑ Mikulincer, M., & Shaver, P. R.(2016). Attachment in Adulthood: Structure, Dynamics, and Change (2nd ed.). Guilford Press.
  8. ↑ Wikipedia contributors(2026). Attachment theory. Wikipedia.

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最終更新:2026年9月28日